千里の道も一歩から

ひとり社長の給料はこう決めた!|訪問型サービスを展開する私の場合

個人事業主と法人の大きな違いは、事業に関するお金を引き出す方法に制限があることです。
法人を立ち上げると、個人事業主のように経費を差し引いたお金を自由に使える、というわけではありません。

  • お給料はどれくらいにしたらいい?
  • 起業している人の手取りがどんな感じか知れば、イメージが湧きそう。
  • でも、手取りを増やすと社会保険料や税金が高くなるのでは?

この記事では、法人を立ち上げ、訪問型サービスを展開する私自身が、どのように「自分の手元で使えるお金」を法人から引き出しているのかをまとめました。
例え近くに起業している人がいたとしても、なかなか収入については聞きづらいもの。法人からお金を引き出す一つの方法として、参考になれば幸いです。

※当記事の方法を推奨するものではありません。運用についてはご自身の事業に合わせて、専門家にご相談ください。

たとえ代表でも法人のお金は自由に使えない|法人と代表は“まったくの別人”

「法人の方が経費の幅が広がる」とか、「法人はお金を引き出すのが難しい」と聞いたことはありませんか?

そもそも「法人」とは、何なのでしょうか?
法人は、「人ではないけれども、法律上では人と同じように権利義務を持つことが認められている組織や団体」です。つまり、たとえその代表であっても、法人と代表はまったくの別人なのです。

そのため、会社の売上は“法人のお金”であり、“自分のお金”ではありません。
他人の財布から勝手にお金を持ち出すのがNGなように、法人のお金は勝手に持ち出せません。ここからは、私自身がどのようにこの仕組みを理解し、自分の手元にお金を引き出しているかを紹介していきます。

法人の売上は会社のもの/代表個人とは無関係

会社の売上は、たとえひとり社長であっても自分のものではありません。
法人を設立した時点で、会社の名前で得たお金は、自分(=代表)のお金ではなく、法人という“別の人”のお金になります。

たとえば、100万円の売上があっても、そのお金は法人名義の口座に振り込まれます。
名義も、帳簿上の管理も、税金の扱いも、すべて「会社のお金」として扱われるため、代表個人が自由に使うのはNGです。

個人事業主であれば、事業の利益はそのまま自分の収入と見なされます。
収入から経費を差し引いて、残ったお金は全て事業主である自分のものです。そのため、生活費にあてても、貯金しても、帳簿上も現実も「自分のお金」として動かせます。
しかし法人では、利益が出ても、そのお金を代表である自分が自由な用途で使えるようにするには、ルールに沿って会社から引き出す必要があります。

「実質的には自分で稼いだお金なのに、自由にできない。」
そう思うと、ちょっと不自由だと感じるかもしれません。
でもこれは、法人というしくみの前提であり、法人ならではの信用や経費の自由度と引き換えに受け入れる部分でもあります。

法人からお金を引き出すには”ルール”がある

法人からお金を引き出すには、ルールに沿った手続きを踏む必要があります。
個人事業主のように、経費を差し引いたものをそのまま生活費に回す、というわけにはいきません。

先程も書いた通り、法人と代表は全くの別人です。そのため、代表が生活費などの個人的なお金を使いたい場合、法人のお金だったものを個人のものにする手順が必要になります。
報酬は働いた対価ですが、どのような条件や方法、金額を対価として法人から代表に支払うのかを明確にしておく必要があります。その代表的な方法が、役員報酬や出張手当の支給です。

元々は私も個人事業主として起業しましたが、正直、個人事業主と法人では、圧倒的に個人事業主の方が会計はおおざっぱでもなんとかなります。だからというわけではありませんが、法人成りするまでは税理士なし、会計ソフトなしで本の付録のExcel帳簿で十分やっていけました。

ただ、その感覚のままだと、法人と個人の境界が曖昧になり、税務・会計の面でもリスクが生じます。私自身、そのリスクを感じて、法人成りを機に会計ソフトを導入し、税理士に顧問をお願いしています。

特にひとり社長の場合、「全部自分で稼いだお金」という意識があるぶん、線引きが曖昧になりがちです。
だからこそ、最初の段階で「お金の出し方は別物」と意識しておくことが大切です。

「役員報酬」だけじゃない!役員が使えるお金を引き出す方法

法人から代表個人にお金を出す方法として、よく使われているのが「役員報酬」と「出張手当」です。私自身もこの2つの名目で法人から代表個人のお金にしています。
このパートでは、それぞれどんな性質があり、どんな理由で選んでいるのかをお伝えします。

役員報酬|課税対象としての基本的な引き出し方

役員報酬は、会社から代表に支払われる「働いたことに対する対価」です。
法人の利益を個人に渡す方法としては最も一般的で、多くのひとり社長がこの形でお金を受け取っています。

毎月定額で支給されるのが基本で、見た目は会社員でいう給料です。
ただし、見た目は給料でも、それとは違い、法人の損金に算入するためには注意が必要なものです。

それから、税金や社会保険料の計算も、この役員報酬の金額をベースに決まってきます。
そのため、役員報酬をいくらにするかは、後の生活や納税に大きく関わる設計になります。

私は、役員報酬を決める際、顧問税理士に税金を極限まで抑えたいという希望を伝えた上で相談に乗ってもらい、報酬額を決定しました。
ここでは、法人から引き出すお金について、私がどんな風に考えたかをお伝えします。
漠然と相談しても、法人からお金を引き出す方針がわからないと適切なアドバイスを受けられないと思うので、参考にしてください。

税金・社会保険料の計算のもとになる

役員報酬の金額は、原則として自分で自由に決められます。
そのため、「せっかく法人にしたなら、出せるだけ出して生活費に回したい」と考える人も少なくないかもしれません。

ですが、役員報酬は“そのまま手取りになる”わけではありません。
大きく影響するのが社会保険料です。
法人化すると、健康保険と厚生年金に加入する必要があり、毎月の報酬に応じて保険料がかかります。
※兼業起業の場合は必ずしもそうではありません。

健康保険料は地域で変わり、さらに、40歳以上の場合は介護保険料が上乗せされるため一律ではありませんが、東京都の場合だと11,000円程度が報酬から引かれます。
そのため、役員報酬を45,000円/月としても、実際に代表に支払われる額は34,000円/月となります。
この差を知らずに報酬を決めてしまうと、想定より生活が苦しくなる可能性もあります。

また、会社が支払う報酬は“会社の損金”になるため、法人税の計算にも影響します。
法人・個人の双方に関わるものだからこそ、目先の金額だけで決めるのではなく、税理士などと相談してバランスをとる必要があると考えました。

「月4.5万円」がひとり社長でよく聞く理由

「月4.5万円」という役員報酬は、ひとり社長のあいだでよく聞く役員報酬の金額設定です。
これは、社会保険料と所得税の両方を最も低く抑えるバランスがとれる金額として知られています。

まず、社会保険料の観点から見ると、45,000円の報酬は標準報酬月額の最低等級に該当するため、健康保険・厚生年金あわせての負担が最小限に抑えられます。
地域や年齢にもよりますが、毎月11,000円程度で済むのは、現実的にかなり大きな差です。

一方でもうひとつ考えたいのが、所得税の負担です。
所得税には「基礎控除」などの非課税枠があり、年間54万円=月4.5万円に抑えると、この枠内で課税されない範囲に収まりやすくなります。

要は、報酬から控除される「社会保険料」と「所得税」という2つの異なる基準を持つものを、どちらも最低ラインにする金額として、月4.5万円が意識されているのです。

ただしこれは、他に収入がない場合で、例えば会社員のまま起業しているケースや、年の途中で会社員を辞めた場合などは、合計所得額で判断する必要があります。
実際に、私も1期目は月毎の役員報酬を4.5万円より低く抑えているのですが、年の途中まで一般的な会社員としてお給料をもらっていたので、その収入を含めて1年間の役員報酬が基礎控除内である54万円となるようにしています。

出張手当|非課税で支給可能な業務実費の手当

「出張旅費特例」という制度を聞いたことはないですか?この制度が使えるというこはが個人事業主と法人との大きな違いの一つなのですが、活用することで、一定のルールに沿った出張手当を非課税で支給することができます
そのためには、あらかじめ「旅費規程」を社内で定め、支給の基準や金額を明確にしておく必要があります。

この仕組みをうまく活用することで、実費精算の手間を減らしながら、業務上の移動にかかるコストを定額で処理できるようになります。
特に、私のように契約先に訪問する機会が多い業態では、会計処理の効率化という点でも大きなメリットがあります。

また、きちんと制度を整えたうえで運用すれば、支給された手当は所得税や社会保険料の対象とならない非課税所得として扱うことができます。

出張=遠方ではない!定義は自社で設定する

「出張」と聞いて、明確にどういうものか説明できますか?新幹線や飛行機を使って遠方へ行くイメージを持つ方も多いかもしれません。
私が以前勤めていた会社でも、出張手当が支払われるのは100km以上離れたとろころへ出張した場合でした。
ですが、実は”どこからが出張か”に明確な距離制限はなく、自社で定義を設定する必要があるのです

そのため、「出張」の定義は企業によって様々です。距離の制限があるケースが多いようですが、公務員の旅費に関する規程だと、実は距離の決まりはありません。出張は公務員はこのように定義されています。

職員が公務のため一時その在勤官署(常時勤務する在勤官署のない場合又は各庁の長若しくはその委任を受けた者(以下「旅行命令権者」という。)が認める場合には、その住所、居所その他旅行命令権者が認める場所)を離れて旅行し、又は職員以外の者が公務のため一時その住所又は居所を離れて旅行することをいう。

‐国家公務員等の旅費に関する法律

私はこの定義を参考に、自社の”出張”を国内旅費規程内で定義づけています。
「出張とは◯◯である」と定義づけることで、社内外に対しても説明できる状態を整えることが大切です。

支給には「旅費規程」と実態の整合性が必要

出張手当は「出張旅費特例」を活用することで、非課税で支給できますが、自由に支払ってよいわけではありません。
手当の金額や支給条件は会社で定められますが、規程に沿った運用が必要です。

実際には出張していないのに支給するのはもちろん、明らかに過大な手当の金額を設定したりすれば、税務調査などで否認される可能性があります。

事業に関連してなんらかの移動が発生するというのを前提に、大切なのは、旅費規程で定めた条件と、実態にズレがないことです。

制度を正しく活用するためには、ルールを守り、客観的に見ても支給に無理がないよう整えておくことが欠かせません。
旅費規程に沿った運用を徹底することが、手当を支給するための前提です。

役員報酬と出張手当の違い|“手取り”を左右する考え方

報酬と手当は、同じ「法人から代表に支払われるお金」でも、課税の有無や社会保険料の扱いが異なります。
その違いが、自分の手元に残る“実際に使えるお金”の差になって表れてきます。

所得税なし・社保を最低額にするためには

「できるだけ税金や保険料を抑えたい」——これはひとり社長にとって切実なテーマです。
役員報酬の金額を調整することで、所得税も社会保険料も最小限にすることが可能です。これができるのが法人化する大きなメリットのひとつだと思います。

結論から言ってしまえば、、役員報酬を月額4.5万円にするれば個人の社会保険料や税金を最小にできます。
社会保険料は63,000円までであれば最低額に、年額55万円=月額約4.5万円であれば全額給与所得控除が可能なので、その両方を満たす最大額が約45,000円(厳密には45,833円)というわけです。

給与所得控除は、個人事業主や会社員との兼業の場合はその収入も全て合算したものが対象となるので、兼業起業の場合は年間の収入を計算してみてください。
実際私は、法人1期目は年の途中まで会社員として給与を得ていたため、給与+役員報酬の年額が課税されない範囲に収まるように役員報酬を設定しました。

出張手当の性格は実費弁済

出張すると、食費や通信費などの細かい出費が発生します。
仕事としてその場所に出向かなければかからなかったお金を、出張した本人が立て替えている状態です。

このような支出を補うために支給されるのが、出張手当や日当と呼ばれるお金です。
性質としては「実費弁済」にあたり、本来会社が負担すべき業務に伴う費用を、あとから補填するという位置づけになります。

出張先への移動にかかる交通費も同様です。立て替えた金額を精算する仕組みですが、毎回細かく処理するのは負担が大きくなります。
私は複数の契約先を訪問するため、会計処理の効率化の観点から「出張旅費規程」を定め、一定額をルールに基づいて支給しています。

この「出張旅費規程」は、「出張旅費等特例」を活用する前提で制度的に整えて運用すれば、節税面でも有利なんです。
私自身は規程を作り切ってからの相談になってしまったのですが、事前に税理士相談すればより確実ですし、自分のケースに合ったアドバイスをもらえると思います。

負担を少なく「手取り」を確保するために|設計時に考慮したこと

「自分が代表なら、売上に合わせて報酬を自由に変えられる」——そう思っていませんか?
答えはNo。恥ずかしながら私も最初はそう思い、「そのうち会社員時代くらいの手取りに戻せばいいか」と軽く考えていました。
でも実際はそんなに簡単ではなく、報酬の設定は色々と考えておいた方が良いことがあります。実際に私がどのような点を考えて役員報酬額を決めたかをお伝えします。

期首で決めた報酬は1年間固定|あとから変えられない

「売上が上がってきたから、来月からちょっと報酬を上げよう」
「想定より資金繰りが厳しいから、一旦下げよう」

そう思いたくなる気持ちはよくわかります。私も最初はそう考えていました。ですが、法人の代表として報酬を受け取る場合、報酬額は原則として期首に決めた金額を1年間固定で支給し続ける必要があり、税務上のルールだそうです。

減額に関していえば、例外的に認められるケースもありますが、取引先の倒産や事業の急な悪化など、やむを得ない事情がある場合に限られます。
つまり、あとから気軽に変えられるものではないのです。

また、役員報酬は会社員でいう基本給と同じような位置づけで、税金が課される収入です。多ければその分、税負担も多くなるという点も考えてないとなりません。
先に書いたように、社会保険料の最小化+所得税非課税にするのであれば、毎月4.5万円の役員報酬を設定することになります。

出張手当はいつ払う?|手当はどんな時に支払われるのか

ひとり社長は自宅の一部を事務所代わりにしているケースが多いですが、仕事の関係で自宅から出かける頻度はどれくらいでしょうか?

私の場合、自社サービスの提供で契約先に訪問することが多いですが、それ以外にも資料を確認したくて図書館や大学へ行ったり、作業効率を上げるためにカフェなどで作業したりすることもあります。
ただ、こういった自宅=職場からの外出全てに出張手当を支給しているわけではありません。

出張手当は、自社で定めた出張の定義に合うものだけに支給しています。具体的には、ほとんどが契約先でサービスを提供する際の訪問にあたります。

「出張手当=実費弁済」である以上、業務の内容や移動の実態に照らして、補填の必要があると判断される場面に限定しているので、当然といえば当然です。
出張旅費規程を定める際も、「どんなときに手当を出すのか」「どのくらいの支給があれば会計業務を円滑にしつつ個人の持ち出しがなくなるか」は慎重に考えました。

 

まとめ|制度を理解して「使えるお金の設計図」をつくる

ひとり社長の収入設計は、「どれだけ稼げるか」だけでなく、「いくら自由に使えるか」まで落とし込む必要があります。
そのためには、役員報酬・出張手当・社会保険料・税金といった制度の仕組みを正しく理解し、無理のない範囲で最適化することが大切だと感じています。

私自身、この考えに則って、会計処理や税務上も支障がないよう設計したつもりです。
会社から個人に支払われるお金の性質を知らずにいると、「せっかく稼いだのに思ったより手元に残らない」ということにもなりかねません。

自分にとっての「使えるお金」を増やすには、まずはお金の性質を知ること。
制度の枠の中で何ができるかを把握しておくことが、収入設計の第一歩です。

  • この記事を書いた人

MeCAN

一生会社員だと信じて疑わなかったのに育休中に必要に迫られて起業した一児の母
●キラキラしてるだけが起業じゃない
●会社員時代と変わらない生活維持をすることが目標のひとり社長
●事業は会社員時代と同じ事をやっている知識業

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